Artikel: 刃物を選ぶ理由を、つくってきた。FEDECAの10年と、これから。

刃物を選ぶ理由を、つくってきた。FEDECAの10年と、これから。
刃物に興味がない人にも、届けたい。

FEDECAは2015年、兵庫県三木市の刃物メーカー・神沢鉄工から生まれました。
その出発点にあったのは、「刃物文化を次の世代に継承したい」という思いでした。
刃物は、古くから人々の暮らしを支えてきた道具です。
木を削る。食材を切る。自分の手で何かをつくる。
かつては身近だったこうした体験も、暮らしが便利になるにつれて、少しずつ日常から遠ざかっているように感じていました。
一方で、刃物を取り巻く市場に目を向けると、切れ味や使いやすさ、価格といった道具そのものの性能や機能が、主な選択基準になっていました。
もちろん、それらは刃物にとって大切な価値です。
しかし、私たちは別の可能性があるのではないかと考えました。
刃物そのものに興味がない人でも、刃物を使って何かをつくったり、料理をしたりする体験には、心を動かされるのではないか。
たとえば、自分で削った木のスプーンで食事をする。
キャンプでお気に入りのナイフを使い、いつもより少し手の込んだ料理をつくる。
便利さや効率だけでは測れない、自分の手を動かすからこその楽しさ。
そんな体験を届けることができれば、刃物を手に取る人の裾野をもっと広げられるかもしれない。
そこで私たちが掲げたビジョンが、
「刃物で遊ぶ文化をつくる」
という言葉です。
刃物を使うことが、特別な技術を持つ人だけのものではなく、誰もが楽しめる文化になること。
そして、その楽しさが次の世代へと受け継がれていくこと。
FEDECAのものづくりは、ここから始まりました。
「折りたためる包丁」が教えてくれたこと。

FEDECAの初期を象徴する商品の一つが、折畳式料理ナイフです。
その原点は、自分で木製ハンドルを削り、組み立てるナイフキットでした。

木を削る楽しさと、完成した道具を使う喜び。その両方を体験してもらいたいと考えた商品です。
一方で、私たちにはもう一つ、届けたい価値がありました。
それが、「折りたためる包丁」というコンセプトです。

アウトドア用のナイフというと、木を削ったり、薪を割ったりする道具を思い浮かべるかもしれません。
しかし、キャンプで料理を楽しみたい人にとっては、家庭の包丁のように食材を切れることも大切です。
コンパクトに折りたためて、持ち運びやすい。それでいて、まな板の上で食材をしっかり切ることができる。
そんな道具があれば、外で料理をする楽しさがもっと広がるのではないかと考えました。
イベントでお客様に紹介すると、このコンセプトには多くの方が関心を寄せてくださいました。
ところが、実際に購入していただく段階では、一つの壁がありました。
ナイフを自分でつくることに魅力を感じる方がいる一方で、完成までに必要な時間や手間を負担に感じる方もいたのです。
私たちが届けたかったのは、ナイフをつくる楽しさだけではありません。
そのナイフを使って、料理を楽しんでもらうことも大切でした。
そこで、キットの製作工程を段階的に簡略化し、2019年には完成品として販売することにしました。
しかし、完成品のナイフ市場には、すでに多くの商品が存在していました。
自分でつくる楽しさを特徴としてきたFEDECAが、完成品になってもお客様に選んでいただけるのか。
私たち自身、最初から成功を確信していたわけではありません。
そこで挑戦したのが、クラウドファンディングでした。
商品を紹介する際にも、単に刃の性能や仕様を説明するのではなく、「折りたためる包丁」というコンセプトを中心に据えました。
このナイフがあれば、アウトドアでどんな料理を楽しめるのか。
道具の特徴だけでなく、その先にある体験を伝えることを大切にしました。
結果として、Makuakeでは800万円を超える応援購入をいただくことができました。
折畳式料理ナイフは、その後のFEDECAを支える主力商品へと成長していきました。
この経験から学んだのは、商品にどれほど優れた機能があっても、それがお客様の暮らしの中でどんな価値を生むのかが伝わらなければ、選んでいただくことは難しいということです。
そして何より、つくり手が考える価値と、お客様が求める価値は、必ずしも同じではないということでした。
刃物を売るだけでは、刃物文化は広がらない。

折畳式料理ナイフを通じて、FEDECAを知ってくださる方は少しずつ増えていきました。
しかし、私たちには新たな課題がありました。
そもそもナイフに関心のない方には、どうすればFEDECAを知っていただけるのだろうか。
刃物を使う楽しさを広げたいのであれば、刃物だけをつくっていては、出会えるお客様が限られてしまうかもしれません。
そんな中で生まれたのが、FEDECA CLEVER TONG(クレーバートング)です。

料理中に菜箸のように使えて、食卓でも活躍する。置いたときに先端がテーブルに触れない、自立するトング。
そこにFEDECAらしい木製ハンドルやデザインを取り入れました。
ナイフと並べて使いたくなるような、統一感のある道具です。
私たちが目指したのは、単に便利なトングをつくることだけではありません。
異なる道具を組み合わせて使うことで、料理や食事の時間そのものをもっと楽しんでもらうこと。
発売後、FEDECA CLEVER TONGはナイフとは異なるお客様にも手に取っていただける商品になりました。
トングをきっかけにFEDECAを知り、折畳式料理ナイフにも興味を持ってくださる方も生まれました。

一つの道具との出会いから、別の道具へ。
そして、道具を使う新しい楽しみ方へ。
刃物文化を広げるためには、必ずしも刃物から始める必要はない。
FEDECA CLEVER TONGは、そんな可能性を教えてくれた商品でした。
つくり続けることも、文化をつなぐこと。

商品を手に取ってくださるお客様が増える一方で、私たちはものづくりの現場でも大きな転機を迎えました。
2021年、製造を支えていた主力職人が退職することになったのです。
それまでの生産体制は、熟練した職人の経験や技術に大きく依存していました。
もちろん、長年培われた職人の技術は、私たちにとって大切な財産です。
しかし、その技術を特定の人だけに頼っていては、将来にわたって安定して商品をつくり続けることが難しくなります。
そこで私たちは、ものづくりの仕組みそのものを見直すことにしました。

作業工程を細かく分け、複雑な工程を簡略化する。
誰もが同じ品質を目指せるように、専用の治具を開発し、作業手順や品質基準を整える。
経験のない人でも、一つずつ技術を身につけられる製造体制へと変えていきました。
また、子育て中の方が家庭と仕事を両立しながら働けるよう、柔軟な勤務体制も整えてきました。
子どもの体調不良や学校行事などにも対応しながら、それぞれの生活に合わせて働けること。
そして、一人ひとりがものづくりの担い手として成長していけること。
こうした環境づくりも、私たちにとって大切な挑戦でした。
もちろん、最初からすべてがうまくいったわけではありません。
作業のばらつきや品質の課題を一つずつ解決しながら、現場のメンバーとともに改善を重ねてきました。

その結果、未経験からものづくりを始めたメンバーたちが、今ではFEDECAの製造を支える存在になっています。
刃物文化を次の世代へつなぐということは、伝統的な技術を守るだけでなく、これからもつくり続けられる仕組みを育てることでもある。
私たちは、この経験を通じてそう考えるようになりました。
そして、もう一つ大切にしてきたのが、お客様に道具を長く使い続けていただくことです。
FEDECAでは、2021年から何度でも無料で刃を研ぎ直すサービスを正式に提供しています。
刃物は、使い続ければ少しずつ切れ味が落ちていく道具です。
しかし、切れなくなったからといって、すぐに買い替える必要はありません。
研ぎ直せば、また気持ちよく使うことができます。
自分の手になじんだ道具を、手入れしながら長く使う。
使い込むほどに木製ハンドルの表情が変わり、暮らしの中に自分だけの道具が育っていく。
そんな関係を楽しんでいただきたいと考えています。
つくることも、使うことも、使い続けることも。
そのすべてが、私たちの考える刃物文化の一部です。
刃物で遊ぶ文化を、日々の暮らしへ。

FEDECAが生まれてから、10年余り。
私たちはアウトドアやクラフトを中心に、刃物を使う新しい楽しさを提案してきました。
その中で、少しずつ見えてきたことがあります。
それは、刃物を使う楽しさは、キャンプやものづくりといった特別な時間だけにあるのではないということです。
毎日の料理にも、自分の手で何かをつくる喜びがあります。
野菜を刻む。
果物を切り分ける。
お気に入りの道具を手に取り、食事をつくる。
いつもの作業も、使う道具や向き合い方が変わるだけで、少し楽しい時間になるかもしれません。
私たちが掲げる「刃物で遊ぶ文化をつくる」というビジョン。
ここでいう「遊ぶ」とは、単に娯楽として楽しむことではありません。
自分の手を動かし、工夫し、何かをつくる。その過程そのものを楽しむこと。
そう考えると、日々の料理もまた、刃物で遊ぶ時間なのではないでしょうか。
この思いから生まれた新しいブランドが、Somaé(ソマエ)です。

掲げたコンセプトは、
「キッチンを、アトリエに。」
キッチンを、ただ家事をこなす場所ではなく、自分の手で暮らしをつくり、楽しむ場所として捉え直したい。
刃物と木工の技術を生かしながら、使う喜びと、暮らしの中に置いておきたくなる美しさを兼ね備えた道具を届けたい。
そんな思いを込めています。
FEDECAとSomaéでは、提案する商品も、表現する世界観も異なります。
しかし、目指している世界は同じです。
FEDECAがアウトドアやクラフトで育んできた「つくる楽しさ」を、Somaéでは日々のキッチンへ。
道具を使うことを、もっと楽しく。自分の手で暮らしをつくることを、もっと身近に。
「刃物で遊ぶ文化をつくる」という挑戦は、これからもさまざまな暮らしの場面へと広がっていきます。
これからも、刃物を選ぶ新しい理由を。

振り返れば、FEDECAの歩みは、最初から計画どおりに進んできたわけではありません。
自分でつくるナイフキットから、完成品の折畳式料理ナイフへ。
ナイフだけでなく、トングやコーヒー器具など、暮らしを楽しむための道具へ。
熟練職人に頼るものづくりから、多様なメンバーが力を発揮できる製造体制へ。
そして今、アウトドアやクラフトから、日々のキッチンへ。
その時々のお客様の声や、私たち自身の気づきによって、つくるものも、つくり方も変わってきました。
けれど、変わらなかったことがあります。
それは、刃物を使う楽しさを、もっと多くの人に届けたいという思いです。
私たちは、目指す方向は一貫させながら、そこに至る方法は柔軟に変えていくことを大切にしています。
これからも、お客様の声に耳を傾け、時にはこれまでの常識にとらわれず、新しい道具や体験を生み出していきたいと思います。
刃物に詳しくなくてもいい。
特別な技術がなくてもいい。
ただ、自分の手で何かをつくることが、ちょっと楽しい。
そんな体験を通じて、一人でも多くの方が刃物に親しんでくださることを願っています。
刃物で遊ぶ文化をつくる。
FEDECAの挑戦は、これからも続きます。


