レザークラフトナイフの試作の歴史をペングリさんに語っていただきました。
完成までかれこれ2年。色々作ってきたナーとしみじみ。
ペングリさんには操作性、使い勝手を、FEDECAは主にデザインを担当しました。
PENGURI LEATHER AND FEDECA 二人三脚で作り上げた歴史。
是非ご覧ください!
【レザーナイフの生い立ちあれこれ語ろうか】
FEDECAのレザーナイフは、クラウドファンディング終了まで50時間を切りました。連日連夜のこの話題、興味の無い方には「まだなんか言うことあるの!?」とそろそろ(とっくに?)イヤがられそうなナイフの話、でもね、本人たちはまだまだまだまだ語れることあるんやで…!というわけで今日は、『製品版に至るまでの歴史』について、お付き合いくださいな。
語るにあたって、歴代試作たち&それ以前のナイフたちをズラっと並べてみたのが今回のトップ写真。これ以外にもFEDECAのA氏が持ち帰っている物もあるので、試作はたぶん全部で30は超えるんじゃないかな?手元にあるのは全部で18型でした。意外と多いな!
さて二年前に端を発するこのプロジェクト、丹波ハピネスマーケットでA氏と出会う前は我々も御多分に洩れず、カッター、革包丁、デザインナイフに彫刻刀など、手当たり次第に刃物を試すナイフハンターでした。それでもコレ!ってのが無い分は自作してたんですが、たぶんレザー界隈ではそんなに珍しい話じゃないと思います。
自作とはいえせいぜい刃先をいじくる程度、一から鉄を操れるわけではありませんから、鉄の老舗・FEDECAとの出会いは画期的でございました。私は最近知ったんですけど、FEDECAってFe(鉄)×Ca(カーボン)から取ったブランドネームなんですって!(えっでもこれじゃあ鉄×カルシウムじゃない?プルーンヨーグルトの販売してた?)
それでは革野郎×鉄野郎が二年かけて作ってみた18本+α、ちょっと詳しく見ていきましょう。
●第一世代:It’s my knifeベース●
①商品版It's my knifeそのもの FEDECAがヒット作、刃物に親しんでもらうためのナイフが「It's my knife」。詳しくはA氏に任せるとして、これは木を削ることを目的に作られたナイフで、自分でグリップ(握るところ)の加工ができるちょっと面白いキットです。木を削るんだから刃はガッチリとした本格派のガチ鋼・青紙使用。
「ナイフといえば、うちこういうの作ってるんですよー」と世話話程度に聞きつけた翌日に、FEDECAに押し掛けて購入したのがこのIt's my knifeでした。今思うと我々のナイフ難民ぶりに、A氏は若干引いてましたね。
ただ、刃の中腹を押して木を削る目的のナイフですから、刃は当然ですが真っすぐ付いています。切っ先を中心に使うレザークラフトとは相性が良くないので、自分で削って切っ先を少し上げて使っていました。
②It's my knifeから刃を改良 ドン引きで終わらないのがA氏でして、数日後には「レザーナイフ試作しました!」と速達で最初のプロトタイプを送ってきてくれました。切っ先を上げて欲しいという要望に対して、木工用ナイフの旧品をアレンジしてくれたモデルでトライ。
このモデルはナイフ難民にはもう既に画期的だったそうで、!ピカーン!って輝いてました。目だよ。そしてうちの人、今までのあらゆるナイフを脇に追いやりひたすら酷使して数か月、カットとタッチアップのたびにしなっていた刃の中ほどからポッキリ折れました。このハゲ!!!
●第二世代:とにかく刃が長い!●
③剥き身の刃 で、A氏に泣きついてもう一本作ってもらいました。ついでに「どうせ作るならもっとこうして欲しいにゃ☆」とワガmリクエストを言って、このナイフからがっつり形が変わってきます。
最終形と比べると、刃が長ーーーーーいのがわかります。これはIt's my knifeというか木工用デザインの名残です。こちらは「先端しか使わないから刃付けは短めで!」とお願いしたんですが、職人さんここでまさかのサービス精神で刃をたっぷりつけてくれました。そうじゃないんだよ…!
④刃部分にまで革を巻いて握る 革のカットは基本垂直に切りますし、細かな作業ですから持ち手は刃に近づけたい。だからこの長い刃は正直使いにくかったですね。③・④は同じ形で、④のように革を刃の部分にまで巻いて使っていました。ここから完成まで、世代が進むにつれてどんどん刃は短くなっていきます。
●第三世代:グリップ付き&鋭角化●
⑤イラストを元に作ってみた 使い方を言葉で説明しているだけだとどうしてもイメージの差は埋まりません。「こんな形が欲しい!」と、型紙とイラストでやり取りしてできたのがこの世代。大きな変化はふたつです。 ・グリップがししゃもになりました! ・刃が鋭角になりました! ししゃもっぽいグリップが付いて、今の形に近くなりました。逆に今までどうやって握ってたんだよという気もします。
⑥刃の形状が大事 実はより大事なのが刃の形状。刃付けの角度をより鋭角に、そして切っ先の位置がカット時の視線とピッタリ一致するよう、微調整をしています。イラストでもそのあたりのネチネチぶりが伝わってきますね。そしてこれでもまだ刃が長く、相変わらず刃に革巻きです。
●第四世代:全体をスタイリッシュに!
⑦・⑧・⑨ スタイリッシュなナイフを目指す!
これ以前のナイフのおしり(って言うのかな)は何となく丸っこかったのですが、ここをちょっと尖らせて全体がきれいに流れるようなデザインにFEDECA側でスタイリッシュチェンジ!ぶっちゃけおしりは我々全く見て無かったので、こういうカッコいいチェンジはさすがの刃物屋さんやで。
更に商品化に向けA氏も頭をフル回転。切りやすさは大事だけれども、やっぱり道具はカッコよくなきゃエヘヘ手に取る気が起きなくないですか?というわけでA氏デザイン案がこの世代たち。どれもクールでスタイリッシュでしょう?
今後もナイフ全体のイメージとしては、この流線形デザインベースのおしりでいくことになりました。この制作時の振り返りをついさっきA氏とやってたんですけど、深夜のラインに「おしり」という単語が飛び交う羽目になりました。
⑩・⑪ グリップの位置や大きさを検討
加えて、グリップ部分もちょっとずつ前に出たり、大き過ぎるししゃもを削ったりとまだまだ試行錯誤中。この段階では、まだグリップを立体化するか、写真のような革巻きにするかが確定してません。
実際使ってるハゲ当人は、割と最後の方まで革巻きのダイレクト感にこだわってましたね。ギュッと手の中で握りこめる感覚が気に入ってました。あんまり大声では言えないけど私は普通にかっこ悪いなーとは思ってました。たぶん聞いてもそうとは言わないだろうけど、FEDECA勢もそう思ってた気配がありまして、次の世代からグリップ立体化プロジェクトがとうとう動き出します。
●第五世代:グリップが立体化●
革屋「革巻きで!」 鉄屋「…木のグリップもカッコいいことないですか?」 ←必死
というわけでA氏苦肉のご提案、革巻き&木製グリップの2通り販売の模索開始です。「絶対革巻きの方が使いやすいのに…」とブチブチ言いながら、でも一応は立体グリップを革で作ってみる優しいハゲ。というわけで最初の立体化はトコ革を重ねて削りだした革製グリップでした。
A氏側も立体化に向けて、この段階でネジを試作開始。今までのナイフとは持ち方も使い方も違うので、そもそも厚みが違うからネジひとつ流用できません。機械から新しく作ってもらったらしい。ネジってすげえな。
…ところで完成形と比べると、グリップの素材とネジの有無くらいしか差が無く見えるこの世代、実は使い手くらいにしかわからない微妙で微細で、大きな違いがございます。
現物を見てもらうのが一番わかりやすいんですが、この世代で刃付けの角度が良く見ると第四世代と大きく変わっています。シノギの長さが違うのがわかりやすいかな?刃が鈍角になってるんですね。
立体グリップはしっかり握りやすいものの、この鈍角がレザーのカットには向いていなくて、試用だけはしっかりしてみたものの、仕事で使うのは⑩型ばかりを使っていました。
これはA氏にお願いして、そしてたぶん職人さんにかなりの無理言って鋭角に戻してもらいました。…難しいらしいんだ、この角度!!恐ろしいことにここの作業、これだけ機械化が進んだ令和元年、未だ手作業&職人様の手感覚のみで成り立っている部分だそうで、相当無理言った気配がある。でも無理言う。ありがとうございます!!!
●第六世代:ウッドグリップデビュー!●
革巻きを元に、A氏手削りのウッドグリップ第一号が完成です!新型のネジも搭載され、急に最終形が近づいた感がありますね。カッコいい!
ここまで革巻きにこだわっていた革屋がこの型を使い込んでみたところ、「これ良いカモ」とあっさり鞍替え。
「革巻きのダイレクト感も捨て難いんだけど、手のひらの中で作業中に滑らかに動かせるこのグリップも素晴らしい」
とのこと。細かなカーブを描くときとか、こじるわけじゃないけどちょっと方向転換掛けたい時とかに、このグリップは画期的だったそうな。そしてこれが実現できたのも、やっぱり刃の厚みがあってブレないからですね。
その刃にも変更アリで、使えば使うほど「なんか刃は先っぽしか使ってないよね」という事実が明らかになり、刃はどんどん短くなっていっています。
●第七世代:ほぼ最終稿●
⑯A氏最後の手削り
「これで量産化して良い!?」とA氏が泣きながら提出してきたのがこちら。営業企画部の机で一人、ショリショリ木を削るのはさぞかし肩身が狭かったことでしょう。刃はスーパー職人さん謹製のきっちり鋭角に!握りこむにあたってすこーしだけグリップの肉を削いで、これが夢にまで見た最終形です。
「…おk!」 「…!」←また泣いてた
⑰3Dプリンターで作ったグリップ 量産化に向けて、「そもそもこのししゃも型って機械で作れるの?」っていう今更な問題もあるんですけど、そこはうちは関係ないです。なんならA氏が全部削るだろと思ってました。 そしたら「木をマシンカットするのと同じデータで3Dプリンターで作ったよ!」と、なんか未来チックなグリップのナイフが出来てきました。 これで形は最終確認。 じっくり使い込んでみましたが、もう、言いたいことは出てきませんでした。
●!!!最終・商品版!!!●
⑱マシンカットウッドグリップ
グリップは機械で削れたみたいです。良かったね!FEDECAのロゴも入ってカッコよくなったね! 刃付けは結局、信頼のスーパー職人さんの完全手仕上げで、グリップをマシンカットしようが、核心部分は超・人力!いささか泥臭い気がしなくもないんですが、これがええねん!と我々は声を大にして言いたいです。
これが、ええねん! ほんとに、ええねん!!!
泣きながらぶつかりながら叫びながら、一切の妥協はせずに、許さずに作りました、そして作ってもらいました。あと45時間でどれだけの人にこのナイフを知っていただけるか、私は後は神頼みするだけです。クラウドファンディングが終わっても別にこのナイフが終わるわけじゃあないんですけど、でも、プロジェクトとしては一区切り。たくさんの方に認めていただけた、という目に見える形は、FEDECAの、神沢鉄工の、スーパー職人さんの、そして私たちの大いなる励みになるのは間違いありません。だからそこまでは、頑張りたいじゃないですか?
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